いると、何時《いつ》のまにか心地よく、柔《やわら》こう肌《はだえ》にそよぎ入って終《つ》いうとうと[#「うとうと」に傍点]と睡《ねむ》くなる。
 トントン……と二階|梯子《はしご》を響かせながら、酒膳《しゅぜん》を運んで来た女は、まアその色の黒きこと狸の如く、煤《すす》け洋燈《らんぷ》の明《あか》りに大きな眼を光らせて、寧《むし》ろ滑稽は怖味《こわみ》凄味《すごみ》を通越《とおりこ》している。愈《いよい》よ不可思議な大和めぐりだと自ら呆《あき》れる、しかしこの狸の舌はなかなかに愛嬌《あいきょう》の滑《なめ》らかだ。
 旅に乾いた唇を田舎酒に湿《しめ》しつつ、少し善《よ》い心地になって、低声《ていせい》に詩をうたっているスグ二階の下で、寂しい哀しい按摩笛《あんまぶえ》が吹かれている。私はこんな大和路の古い街にも住む按摩《あんま》が、奇妙にも懐かしく詩興《しきょう》を深く感じた、そこで、早々《そうそう》二階へ呼上《よびあ》げたら彼《か》れは盲人《めくら》の老按摩《あんま》であった。
 蒲団の上に足を伸《のば》しながら、何か近頃この街で珍らしく異《かわ》った話は無いか? 私が問うと、老|按摩
前へ 次へ
全9ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
児玉 花外 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング