幣担《ごへいかつ》ぎの多い関西《かんさい》、特《こと》に美しいローマンチックな迷信に富む京都《きょうと》地方では、四季に空に日在《あ》って雨降る夕立を呼んで、これを狐の嫁入《よめいり》と言う、……偖《さて》は今見たのは狐の嫁入《よめいり》でなかったろうか? 後《あと》に黄《き》な菜の花が芬々《ぷんぷん》と烈しく匂うていた。
 何《ど》のくらい歩いただろう、もう日は大和路の黄《き》な菜の花のなかに、極《きわ》めて派手な光琳式《こうりんしき》の真赤な色に沈落《しずみお》ちてしまってから、急いで私は淋しい古い街にある宿へ着いた。入口に角形《かくがた》の張行燈《はりあんどん》の灯《ひ》がボンヤリ夢の如《よう》に点《とも》っていた。
 単に大和の国で、私は郡《ぐん》も町の名も知らない、古宿の破れ二階に、独り旅の疲れた躯《からだ》を据えていた、道中の様々な刺戟に頭は重くて滅入《めい》り込むよう、草鞋《わらじ》の紐の痕《あと》で足が痛む。
 西南《にしみなみ》だろう黒い雲を掠《かす》めて赤い金色《きんいろ》の星が光る、流石《さすが》は昔から床《ゆ》かしい大和国を吹く四月の夜の風だ、障子を開けて坐って
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