銀紙の花簪《はなかんざし》、赤いもの沢山の盛装した新調の立派な衣裳……眉鼻口《まゆはなくち》は人並だが、狐そっくりの釣上《つりあが》った細い眼付《めつき》は、花嫁の顔が真白いだけに一層《いっそう》に悽《すご》く見える。少し大きい唇にさした嚥脂《べに》の、これも悪《あく》どい色の今は怖ろしいよう、そして釣目《つりめ》は遠い白雲《しらくも》を一直線に眺めている。
頓《やが》て嫁入《よめいり》行列は、沈々《ちんちん》黙々《もくもく》として黒い人影は菜の花の中を、物の半町《はんちょう》も進んだ頃《ころお》い、今まで晴れていた四月の紫空《むらさきぞら》が俄《にわ》かに曇って、日が明《あきら》かに射していながら絹糸の如《よう》な細い雨が、沛然《はいぜん》として金銀の色に落ちて来た、と同時に例の嫁入《よめいり》行列の影は何町《なんちょう》を往《い》ったか、姿は一団の霧に隠れて更《さ》らに透《すか》すも見えない。
ただ茫然《ぼうぜん》として私は、眼前《がんぜん》の不思議に雨に濡れて突立《つった》っていた。花の吉野の落花の雨の代りに、大和路で金銀の色の夕立雨《ゆうだちあめ》にぬれたのであった。
御
前へ
次へ
全9ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
児玉 花外 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング