きのさき》の町の直ぐ東を可なり大きな河が流れてゐる。圓山川といふ名だ。珍らしく滿々と水を漲らしてゐた。岸の草山の影を宿したり、下流では、晝顏の咲き交る、蘆荻《ろてき》の洲の傍を流れたりして、城崎の北約一里で、津居山といふ漁村の處で、廣い入江の形となつて、日本海にそそいでゐる。此河が中々趣がある。
 日本には溪流は多いが、かういふ質の河は割に少ないかと思ふ。
 私の行つた頃は、梅雨期の増水で、殊に洋々と稍※[#二の字点、1−2−22]濁りを帶びて、岸の蘆荻を、そよがしてゐた。私はよく、此河に沿うた低い、坦々たる道を散歩した。水面に近い道を、鈍い、大きい川の流れに沿つて、歩いてゐると、如何にも悠久といふ感じがしたものだ。玄武洞は一里餘の上流の河向うにあるが、一寸奇觀だ。
 又一里ばかり川下に、瀬戸といふ村があつて、そこの日和山から見た日本海の眺望は非常に美しい。丁度私が行つたのは、梅雨晴れの晴れ切つた日で、海は紺青に輝き、岸では日和山の一部が墓原になつてゐる處に植ゑてある葵が、紅に今を盛りに咲き匂つて、何とも云へず明るく、輝かな、麗はしい印象を受けた。白晝風景といふ趣だつた。
 ここの茶店
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