以来、谷中村を買上げると云ふことになりますと、また一層ヒドイことをやつた。色々の商人を村へ入り込ませた。これが流言家である。先づ古道具商人を凡そ百人も村へ入れました。道具を売れ、近い中に家を打壊はされるさうだから早くお売りなさい、政府の言ふことを聴くものも聴かないものも皆な打壊はすさうだから今の中に早く道具を売れ――かう言つて運動する。屋敷の木を売れ。鶏も用が無からうから売れ。船も此処に居ないとなれば不用だらうから売れ――種々な商人を何百人も入り込ませて、無智の人民を狂乱させてしまつた。それから村の中へ七人の悪党を入れて、非常な流言を放たせて、人民を騒がせて歩く。さうなくともこの三四年、人民は借金が出来て居る。そこで其の金貸へ手を廻はして、非常な催促をさせる。三百代言を入れて、さア寄越せと云ふ。田地を抵当にしようとしても取り手が無い。売らうとしても買手が無い。金融を塞ぎ、食物を奪ひ、この村に堤防は永世築かないと云ふ公文書まで発して、人を迷はす。人民が発狂するのも無理はない。殆ど狂人のやうになつて村を逃出す。逃出すについて、何程でも銭が欲しいと云ふ所へ、僅の銭を与へるに過ぎぬ。
諸君如
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