ある。四百年の間に人民が段々と積立て来た。そこに残つて居るものが、今日現場で七百万円以上が物はある。現にこの村で、一ヶ村を守る堤防費も、新築するとなると三百五十万円かゝる。この外田畑、宅地、立木――容易なものでない。然うでがせう、今日の戸数が四百五十戸ある。四百五十戸の村をこしらへるのですから、二三百万円で出来るもので無い。されば現物七百万円がものがあるから、七百万円で買つたら穏当のやうだ。一寸考へると、七百万円で売れば可いやうでございます。七百万両がものはあるから七百万両で売つたらドウだと言ふと経済を知らぬ人民は大喜だが、七百万両の村を捨てゝ新しい村が其金で出来るかと言ふと、それは出来ない。それを僅か四十八万両で買ひ潰すと云ふのは、買ふのでは無い、村を取る運動費に過ぎないのである。それで、これまでに皆な僅かな移住費を与へて、人民を四方へ追散してしまつた。然らば何故に人民が然う政府の言ふことを聴くか。余り意気地の無い人民では無いか。かう諸君の御軽蔑もございませうが、これは深く謀つたことで、これを少しでも御訴へ申したくて出ましたから、暫く御猶予を願つて御話したいのでございます。
 谷中村
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