は余り起しませぬ。一たび強大なる器械を入れて数千の職工を集めれば、一つの国と同じで職工は主人の顔を見ることさへ無い。更に資本の勢力を以て機械を充分に入れゝば、一二人の財産では足りないから、会社の組織が起る。会社の組織が起れば、株主と職工と顔を合はせると云ふことは決して無い。さうなると資本と労力との競争のみで、人情の油はこの競争を緩めることは無い。この事が我国の経済社会に必ず起つて来ると思ひます。――興業上の兼併が行はれて多くの人が家来になる。この者が常に雇はれて居ればまだ良いが、決して然うは行かない。生産の競争が起れば色々制限を行ひます。少し出来過ぎて売口が遠くなれば、労役者を解雇します。賃銭はたとひ安くとも仕事があれば、パンを買ふ銭もあるが、雇を解かれゝば、パンを買ふ銭も無くなつて、たゞ坐食しなければならぬ。どうしても資本家と労働者と激戦をしなければなりません。望のある動物なら、何とかしてこの組織を破らうと云ふ考を起すは、已むを得ない。」
「私は社会党でも共産党でもないが、国として考へれば、百人の中一人は非常に富んで九十九人は極貧であるは、人情喜ぶべきでない、国の安全でもない。人民が
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