乾児だ。
 毎日新聞が「公盗の巨魁星亨」と題して連日攻撃の記事を掲げ、且つ司法権の発動を促がすや、星は忽ち逆襲の兵法を執つた。左に星と先生との往復の書翰を示す。
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星亨の来書。
 島田三郎足下
 足下の主宰する毎日新聞は、近日連りに虚妄の事項を登載し、言を極めて予を讒毀せり。予は世上多くの新聞記者が自ら知らず、而して犠牲責任者の背後に潜みて唯徒らに紙上に呶々するの陋を見、常に其言ふ所に放任し、之を弁駁咎責するの要なしとせり。然れ共足下は其流を異にし、平生道義徳操を標榜とし、士君子を以て自ら居る。然るに今回の事たる、足下其平生に反し、虚妄無責任の事実を濫記し一に予を讒誣し、狂呼暴言殆ど常感の外に逸する観あらしむ。思ふに足下必ず確信する所あるによるべし。
 足下果して予を以て言ふが如き汚涜の事実ありとせば、宜しく公然自ら名を署し其責を明にせよ。若し既記の事実を再説するの要なしとせば、従前の記す所、足下の手に成れるを明示せよ。予亦足下の責任に対し、相当の敬意を以て進で此が虚妄讒誣を証明するの手段を講ずべし。此れ足下平生の主張に於て必ずや否む能はざる所なるべし。若し夫れ尚
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