設楽常八、群馬県|邑楽《おふら》郡渡良瀬村の村長谷富三郎、多々良村の亀井明次、西谷田村の荒井嘉衛等は各※[#二の字点、1−2−22]自宅より拘引《こういん》されたり。
十六日、前橋地方裁判所の嘱託を受けたる各地管轄の区裁判所判事は目星《めぼし》き村民の家宅に就きて証拠物件の捜索を遂げぬ。而して其の苟《いやしく》も鉱毒事件に関する者は信書と印刷物と其の新と旧とを問はず尽《こと/″\》く之を押収し去れり。多くの拘引状は尚ほ警官の手に握られてあり。何時、誰れが捕縛し去られんも知るべからず。鉱毒被害地を挙げて人心極めて不安なり。

   警官の挙動

此の疑獄に向て余は隻語《せきご》だに容喙《ようかい》すべき権利なし、然かのみならず、余は此際特に謹慎を加へて、彼等人民が今回の動静に就ては務めて沈黙を守らんと欲す。人民の行為に対しては司法官の審検あらん。去れど其の対手《あひて》たる警官の挙動は今ま爰《こゝ》に其の一斑を記述し置くべき必要あらん。
利根河畔に於て警官が抜剣したりや否やは、是れ被害民の動作と相関聯する問題にして、警官は其の機を得て抜剣すべき権力ある者、余は之を以て今回の活劇に於ける大
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