》れでした、成程、其の小米と云ふ婦人も、今ま貴女の(と花吉を一瞥《いちべつ》しつ)仰《お》つしやる通り実に気の毒でした、然《し》かし彼女《かのをんな》が彼《あ》の如くして生きて居たからとて、一日と雖《いへど》も、一時間と雖も、幸福と云ふ感覚を有《も》つことは無かつたでせう、兼吉が執つた婦人に対する最後の手段は、無論正道をば外《はづ》れてたでせう、が、生まれて此《かく》の如き清浄な男児の心を得、又た其の高潔なる愛情の手に倒れたと云ふことは、女性《をんな》としての満足なる生涯《しやうがい》では無いでせうか」
「ナ、成程」
 花吉は黙つて篠田を凝視《ぎようし》せり、

     九の三

「多くの新聞には、兼吉が是れ迄も数々《しば/\》小米《こよね》と云ふ婦人に金の迷惑を掛け、今度の凶行も、婦人が兼吉の無心を拒絶したから起つたかの如く、書かれてありましたが、あれは丸井さん、兼吉の為めに気の毒の至極《しごく》です」と、篠田は其談を継続しぬ、
「兼吉と云ふ男は決して其様《そん》な性格の者ではありませぬ、石川島造船会社でも評判の職工で、酒は飲まず、遊蕩《いうたう》などしたことなく、老母には極《きは
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