《さかづき》を捧げつゝあり、
 篠田は膝《ひざ》に手を置きて「私《わたし》は酒を用ひませぬから」
「お手にだけなりともおとり遊ばせ」
「イヤ、私《わたし》は一切、用ひませぬから」
 丸井老人ニユウと禿顱《はげあたま》突き出しつ「花ちやん、篠田先生は御禁酒のだから無駄でげすよ、と云うて美人に使命を全うせしめざるも、心なき業《しわざ》なり、斯《か》かる時局切迫の調和機関、中立地帯とも言ふべかる丸井玉吾、一つ先生の代理と行きやせう」言ひつゝヒヨイと猿臂《ゑんぴ》を延ばして、彼女《かれ》の手より盃《さかづき》を奪へり、
「アラ」
「げに、酒は美人に限ること古今相同じでげす」と丸井玉吾既に一盞《いつさん》を傾け尽くしつ「イヤ、どうも御禁酒の方《かた》の代理と云ふ法も無《ない》わけでげすな、先生、飛んだ失礼を――」と、彼は奇麗《きれい》に光る禿顱《とくろ》を燈下に垂れて、ツル/\と撫《な》で上げ撫で下ろせり、花吉は絹巾《ハンケチ》に失笑《をかしさ》を包みて、窃《そ》と篠田を見つ、
「今もネ、花ちやん」と丸井老人は真面目顔「例の芸妓殺《げいしやころし》――小米《こよね》の一件に就《つい》て先生に伺つ
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