何所《どこ》に残つて居りますか」
老女は急に気を変へて、打ちほゝ笑み「まア、先生、朝ツぱらから此様《こんな》愚痴を申して済みませぬが、考へて見ますと、成程女と云ふものは悪魔かも知れませぬのねエ、山木様も奥様のお亡《なくな》りなされた当分は、我家の燈《ともしび》が消えたと云つて愁歎《しうたん》して在《い》らしたのですよ、紀念《かたみ》の梅子を男の手で立派に養育して、雪子の恩に酬ゆるなんて吹聴《ふいちやう》して在らつしやいましたがネ、其れが貴郎《あなた》、あの投機師《やまし》の大洞《おほほら》利八と知り合におなりなすつたのが抑《そも/\》で、大洞も山木様の才気に目を着け、演説や新聞で飯の食《くへ》るものぢや無い、是《こ》れからの世の中は金だからつてんでネ、御馳走《ごちそう》はする、贅沢《ぜいたく》はして見せる、其れに貴郎、鰥《やもめ》と云ふ所を見込んでネ、丁度|俳優《やくしや》とドウとかで、離縁されてた大洞の妹を山木さんにくつ付けたんですよ、ほんたうにまア、ヒドいぢやありませんか、其れが、貴郎《あなた》、今の奥様のです、だから二た言目には此の山木の財産《しんだい》は己《おれ》の物だつて威
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