出でつ「オヽ、花ちやん――お珍らしい、能《よ》くお入来《いで》だネ、さア、お上りなさい、今もネ私一人で寂しくて困つて居たのですよ――別にお変りもなくて――」
「ハア、――老母《おつかさん》も――」と、嫣然《えんぜん》として上り来れるお花は、頭《かしら》も無雑作《むざふさ》の束髪《そくはつ》に、木綿《もめん》の衣《ころも》、キリヽ着なしたる所、殆《ほとん》ど新春野屋の花吉《はなきち》の影を止めず、「大和《おほわ》さんは学校――左様《さう》ですか、先生は不相変《あひかはらず》御忙しくて在《いら》つしやいませうねエ――今日はネ、阿母《おつかさん》、慈愛館からお聴《ゆるし》が出ましてネ、御年首に上つたんですよ、私、斯様《こんな》嬉しいお正月をするの、生れて始めてでせう、是《こ》れも皆な先生の御蔭様《おかげさま》なんですからねエ――其れに阿母《おつかさん》、兼さんから消息《おたより》がありましテ、私、始終《しじゆう》気になりましてネ」
老母の目は復《ま》た忽《たちま》ち涙に曇りつ「――予審とやらは此頃やうやく済んださうですがネ――」
「左様《さう》ですツてネ――其事は私も新聞で見ましたの、――
前へ
次へ
全296ページ中252ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
木下 尚江 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング