けて坂路を辿《たど》る篠田の黒影見えずなる迄、月にすかして見送りぬ、涙に霞《かす》む老眼、硬き掌《たなそこ》に押し拭《ぬぐ》ひつつ、
二十四の三
権作老人と立ち別れて篠田は、降り積む雪をギイ/\と鞋下《あいか》に踏みつゝ、我が伯母の孤《ひと》り住む粟野《あはの》の谷へと急ぐ、氷の如き月は海の如き碧《あを》き空に浮びて、見渡す限り白銀《しろがね》を延べたるばかり、
老夫の旧懐談に心動ける彼は、仰《あふい》で此の月明に対する時、伯母の慈愛に負《そむ》きて、粟野の山を逃れる十五歳の春の昔時《むかし》より、同じ道を辿《たど》り行く今の我に至るまで、十有六年の心裡《しんり》の経過、歴々浮び来つて無量の感慨|抑《おさ》ゆべくもあらず、只《た》だ燃え立つ復讐《ふくしう》の誠意、幼き胸にかき抱きて、雄々しくも失踪《しつそう》せる小さき影を、月よ、汝は如何《いか》に哀れと観じたりけん、焦《こ》がるゝ如き救世の野心に五尺の体躯《からだ》徒《いたづら》に煩悶《はんもん》して、鈍き手腕、其百万の一をも成すこと能《あた》はざる耻かしさを、月よ、汝《なんじ》は如何《いか》に甲斐《かひ》なしと照ら
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