颪《やまおろし》、身を切るばかりにして、戸々《こゝ》に燃ゆる夕食《ゆふげ》の火影《ほかげ》のみぞ、慕はるゝ、
「馬車が出ます/\」と、炉火《ろくわ》を擁《よう》して踞《うづく》まりたる馬丁《べつたう》の濁声《だみごゑ》、闇の裡《うち》より響く「吉田行も、大宮行も、今ま直《すぐ》と出ますよ」
 都の巷《ちまた》には影を没せる円太郎馬車の、寂然《せきぜん》と大道に傾きて、痩《や》せたる馬の寒天《さむぞら》に俯《ふ》して藁《わら》を食《は》めり、
 二台の馬車に、客はマバラに乗り込みぬ、去れど御者も馬丁《ばてい》も悠々《いう/\》寛々《くわん/\》と、炉辺に饒舌《ぜうぜつ》を皷《こ》しつゝあり、
「オヽイ、馬丁さん、早くしてお呉れよ、躯《からだ》がちぎれて飛んで仕舞《しま》ひさうだ――戯※[#「墟」の「土」に代えて「言」、第4水準2−88−74]《じやうだん》ぢやねえよ」と、車の裡《うち》なる老爺《おやぢ》は鼻汁《はな》すゝりつゝ呼ぶ、
「まア、飛ばねえやうに、繩ででも縛《くゝ》つて置いてお呉れなせえ、此方《こつち》の躯《からだ》もちぎれねえやうに、今ま一杯|行《や》つてくからネ」、御者は又
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