気の毒なことしたとだに思つて貰ふことがならぬではありませんか――何と云ふ不幸な私の鼓膜《こまく》でせう、『我は汝を愛す』と云ふ一語の耳語《さゝやき》をさへ反響さすることなしに、墓場に行かねばなりませんよ――」
「梅子さん」突如銀子は梅子の膝《ひざ》に身を投げ出し、涙に濡れたる二つの顔を重ねつ「梅子さん――寄宿舎の二階から閃《きら》めく星を算《かぞ》へながら、『自然』にあこがれた少女《をとめ》の昔日《むかし》が、恋しいワ――」
ワツと泣き洩《も》る声を無理に制せる梅子は、ヒシとばかり銀子を抱《いだ》きつ、燃え立つ二人の花の唇、一つに合して、暫《し》ばし人生の憂《う》きを逃れぬ、
遠音に響くピヤノとウァイオリンの節面白き合奏も、神の御園《みその》の天楽と聴かれて、
十八の一
国民の耳目《じもく》一に露西亜《ロシヤ》問題に傾きて、只管《ひたすら》開戦の速《すみや》かならんことにのみ熱中する一月の中旬、社会の半面を顧《かへりみ》れば下層劣等の種族として度外視されたる労働者が、年々歳々其度を加ふる生活の困苦惨憺《こんくさんたん》に、漸《やうやく》く目を挙げて自家の境遇を覚悟す
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