》に何某殿《なにがしどの》と不景気知らずの冬籠《ふゆごも》り、嫉《ねた》ましの御全盛やと思ひの外、実《げ》に驚かるゝものは人心、気の知れぬと古人も言ひける麻布《あざぶ》は本村《ほんむら》の草深き篠田長二のむさくろしき屋台に大丸髷《おほまるまげ》の新女房……義理もヘチマも借金も踏み倒ふしの社会主義自由廃業の一手専売、耶蘇《ヤソ》を棄てて妻を得たとの大涎《おほよだれ》、筒ツぽ袖には拭き尽せまじ……彼が積年の偽善の仮面《めん》をば深くな咎《とが》めそ、長二君とて木から生まれた男ではごんせぬ、
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梅子は胸を押へて復《ま》た目を塞《ふさ》ぎぬ「――本当だらうか――」
十三の一
麻布本村の阪を上がり行く牛乳屋の小僧と八百屋の小僧、
「其処《そこ》の篠田さんナ、彼様《あんな》不用心な家見たことが無《ね》いぜ、暗いうちに牛乳《ちゝ》を配るにナ、表の戸を開けて裡《なか》へ置くのだ、あれで能《よ》く泥棒が這入《はひ》らねエものだ」
「ナニ、年中泥棒に遭《あ》つてるださうナ、これから広尾へ掛けて貧乏人の巣だから、堪《た》まつたもんぢやねエやナ、所がお前《めえ》言ひ分
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