貰つて、不義の栄耀《ええう》に耽《ふけ》り、其手先となつて昔日《むかし》の朋友《ほういう》の買収運動をさへなさるとは、姉さん、まア、何と云ふ堕落でせうか」
 剛一は姉の側に膝押し進めつ、「姉さん、僕は、此《かく》の如き人の児と生まれ、此の如き人の姪《をひ》と言はれることを耻づかしくて堪まらないのです、然《しか》るに姉さん、世間の奴等は何と云ふ破廉耻《はれんち》でせう、学校の校長でも教員でも、山木剛造の児であり、大洞利八の姪《をひ》である為めに、僕に対して特別の取扱をするんです、彼等と雖《いへど》も父《おやぢ》や伯父の不義を知らんことは無い、只《た》だ黄金に阿諛諂佞《あゆてんねい》するんです――姉さん、貴嬢《あなた》は僕に比ぶれば余程幸福です、貴嬢の実母《おつか》さんは実に偉い方であつたさうですし、父さんも未だ堕落以前の人であつたんだから――けれど其の為めに姉さんが僕を軽蔑《けいべつ》したり、何《なん》かなさる人でないことを確信してるから、嬉しいんです」
「剛さん、其様《そんな》こと言ふものぢやありません、何《ど》うぞ其様こと言はないで下ださイ」
「けれど、姉さん、何《ど》うぞ僕に言はせ
前へ 次へ
全296ページ中108ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
木下 尚江 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング