の木枯《こがらし》吹きすさぶが如き荒涼《くわうりやう》の世界も、忽ち春霞《しゆんか》藹々《あい/\》たる和楽の天地に化する、彼女《かれ》を愛することに依《よつ》て我あるを知ることが出来る、――彼女は即《すなは》ち我が生命であると自白して居ましたよ、そして僕に向《むかつ》て、山木、君は果して理想の佳人が無いかと詰問しますからね、僕は言つて遣《や》つたのです、――山木剛一にも理想の佳人があるツ」
「アラ、剛さん」
「では其人は誰かと聞きますから、僕は藤野に言つたのです――僕の理想の佳人は家《うち》の姉さんである」
「剛さん、マ、何を貴郎《あなた》」と梅子はサツと、面《かほ》を紅《あ》かめぬ、
「姉さん、本当です、――すると藤野も非常に感動して、君は実に幸福だと言ひました、左様です、僕は実に幸福です、御覧なさい、藤野の佳人は忽《たちま》ち他に嫁《とつ》いで仕舞《しま》つたのです、藤野の生命は其時既に奪はれたのです、華厳滝《けごんのたき》へ投げたのは、空蝉《うつせみ》の如き冷たき藤野の屍骸です、去れど姉さん、貴嬢が独身で居なさらうとも、又結婚なさらうとも、僕は永久に貴嬢《あなた》を姉さんと呼ぶ
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