だんちよ》に「藤野さんテ、彼《あ》の華厳滝《けごんのたき》でお死なすつた操《みさを》さんですか」
「左様《さう》です、世間では彼が自殺の原因を、哲学上の疑問に在る如く言ひ囃《はや》しましたが、あれぢや藤野の霊も浮ばれませんよ、――僕は能《よ》ウく彼の秘密を知つてますからネ」
「ぢや、剛さん、何か深い原因《わけ》があつたのですか」
「左様《さう》です、人生の不可解が若《も》し自殺の原因たるべき価値あるならば、地球は忽《たちま》ち自殺者の屍骸《しがい》を以て蔽《おほ》はれねばなりませんよ、人生の不可解は人間が墓に行く迄、片手に提《さ》げてる継続問題ぢやありませんか、其様《そんな》乾燥無味な理窟《りくつ》で、彼《あ》の多感多情の藤野を殺すことは出来ませんよ」
「剛さんとは兄弟の様に親しくて、私《わたし》のことも姉さんと呼んで下だすつたので、ほんたうにお可哀さうだと思つてネ」
「姉さん、藤野は実に可哀さうでした――彼の自殺は失恋の結果なんです」
「エ、――失恋?」
「左様です、彼《か》の『巌頭《がんとう》の感』は失恋の血涙の紀念です、――彼が言ふには、我輩は彼女《かのぢよ》を思ひ浮かべる時、此
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