電話ぢや能《よ》く解らないツてんで態々《わざ/\》使者《ひと》まで来たぢやないか、何が面白くて湖月などにグヅついてたんだ、帰つたと思《お》もや、頭痛がするツて寝て仕舞つてサ、昨日も今日も御飯もたべず、頭が痛えか、腰が痛えか知らないが、一体まア、何《どう》思つて居るんだ」
 去《さ》れど花吉は答へんともせず、
 ポンと、お六は灰吹叩きつ「花吉ツ、耳が無《ね》いのか、お前《めえ》の目にや、私《わたし》と云ふものが何と見えるんだ、――何処《どこ》の者とも知れねエ乞食女の行倒《ゆきだふれ》の側に、ヒイ/\泣いてる生れたばかりの女の児が、余《あんま》り可哀さうだつたから拾ひ上げて、乳の世話から糞尿《おしめ》の世話、一人前に仕上げる迄、何程《どれほど》の苦労だつたとも知れたもんぢやない、チヨツ、新橋の花吉が一人で出来たとでも思ふのか、オイ花吉、此の生命《いのち》は誰のお蔭《かげ》だよ」煙管《きせる》取り上げて、花吉の横顔、熱き雁首《がんくび》にて突ツつきぬ、
 花吉は瞑目《めいもく》して頭《かしら》を垂れぬ「其の御講釈なら、養母《おつか》さん、最早《もう》承はるに及びません、何の因果《いんぐわ》でお前の手などに拾はれたものかと、前世の罪業が思ひやられますのでネ」
「何だ」といきまく養母の面《おもて》、ジロリ横目に花吉は見やりつ「ハイ、乞食の母《おや》の懐《ふところ》で、其時泣き死《じに》に死んだなら、芸妓《げいしや》などになり下《さが》つて、此様《こんな》生耻《いきはぢ》曝《さら》さなくとも済んだでせうにねエ」唇|噛《か》み〆《し》めて、ツと面《かほ》を背向《そむ》けぬ、
「ナニ、芸妓になり下つたト、――余《あん》まりフザけた口きくもんぢやない、乞食の女《こ》でも宮様だの、大臣さんだのの席へ出られると思ふのか」
「大臣が何だネ、養母《おつか》さん、お前は大臣なんてものが、其様《そんな》に難有《ありがたい》のかネ、――私《わたし》に取つちや一生忘られない仇敵《かたき》なんだよ――、あゝ、思うても慄《ぞつ》とする、三月の十五日、私の為めの何たる厄日であつたのか」
「三月十五日が、何《どう》したと云ふんだ」
「お前が私《わたし》を拾つて下すつたのは、今から二十年前の師走《しはす》の廿五日、雪のチラつく夕間暮《ゆふまぐれ》と能《よ》くお言ひだが、たツた五年の昔、三月十五日の花の夜、十六
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