こ》に取る程|狂気《きちがひ》にはなりませんからな、マア/\御安心の上、一日も早く砲火《ひぶた》を切つて私共《わたしども》に儲《まうけ》さして下ださい」
「しかし大洞、山木の娘も篠田と同じ耶蘇《ヤソ》だと云ふぢやないか」
「松島さん、貴下《あなた》の様に気を廻しなすつちや困まる、山木も篠田には年来の怨恨《うらみ》がありますので、到頭《たうとう》教会から逐《お》ひ出させたと、妹《いもと》の話で御《お》わしたが、女敵《めがたき》退散となつた上は、御心配には及びますまい、ハヽヽヽヽ」
「ウム、其れは先《ま》づ其れとしても、君、山木が早く取定《とりきめ》ないのは不埒《ふらち》極まる、今日《こんにち》まで彼を庇護《ひご》して遣つたことは何程《どれほど》とも知れたもンぢやない、彼《あ》の砂利の牛肉鑵詰事件の時など新聞は八釜《やかま》しい……」
と言ひ掛くるを、大洞あわてて押し留めつ
「松島さん、そんな旧傷《ふるきず》の洗濯は御勘弁を願ひます、まんざら御迷惑の掛け放しと云ふ次第でも無《なか》つた様で御《ご》わすから」
「それから彼《あ》の靴の請負《うけおひ》の時はドウだ、糊付けの踵《かゝと》が雨に離れて、水兵は繩梯《はしご》から落ちて逆巻《さかま》く濤《なみ》へ行衛《ゆくゑ》知れずになる、艦隊の方からは劇《はげ》しく苦情を持ち込む、本来ならば、彼時《あのとき》山木にしろ、君にしろ、首の在《あ》る筈《はず》が無いのぢやないか」
「御尤《ごもつとも》至極《しごく》、であればこそ、松島大明神と斯《か》く随喜渇仰致すでは御《お》わせんか――ドウしたのか、花吉、ベラ棒に手間が取れる」
今は大洞受け太刀となつて、シドロモドロの折こそあれ、襖《ふすま》スウと開《あ》いて顔を見せしは、――女将《ぢよしやう》のお才「どうも松島さん、御気の毒様ですことねエ、是《これ》も流行妓《はやりつこ》を情婦《いろ》にした刑罰《むくい》ですヨ、――待つ身のつらさが御解《おわかり》になりましたでせう、ホヽヽヽヽヽ」
九の一
松島海軍大佐をして愛妓花吉を待つに堪へざらしめたる湖月亭の宴会とは、何某《なにがし》と言へる雑誌記者の、欧米漫遊を壮《さかん》にする同業知人等の送別会なりけり、
五ツの座敷ブチ抜きたる大筵席《だいえんせき》は既に入り乱れて盃盤《はいばん》狼藉《らうぜき》、歌ふもあれば跳《は
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