は、同盟罷工に反対して、静粛なる手段を執《と》ることを熱心に勧告したのです、其の往復の書信など僕は能《よ》く知つて居ますが、けれど勢ひ已《や》むを得ないと云ふことになつたもんですから、然《しか》らば坑夫等を無惨《むざん》の失敗に終らしめてはならぬと云ふので、最も困難な兵糧方に廻つたのです、だから彼が教唆《けうさ》したと云ふのは、少こし真実に遠い様でもありますが、彼が無かつたら坑夫の同盟も、今度の労働者団結も成立つことでありませんから、彼が教唆《けうさ》したと報告したのも、結果から言へば全然虚報とは言はれぬ様にもなる次第のです」例の快弁に似もやらず、吾妻は汗を拭《ぬぐ》ひつ、弁疏《べんそ》せり、
「吾妻、全《まる》で貴様は政府を欺《あざむ》いて、我等を欺いて、機密費を盗んで居たのだ」
「けれど」と、吾妻は少しく椅子《いす》を後に退《の》け「其《そり》ヤ課長、無理ですよ、初め僕が同胞社に這入《はひ》り込んだ頃、僕は報告したぢやありませんか、外で考へると、内で見るとは全く事情が違つて、篠田と云ふ男、実に敬服すべき君子だと申上げたでせう、スルと貴官《あなた》は大変に立腹して、其様《そんな》筈《はず》が無い、何かあるに相違無い、政府の方針は飽《あ》く迄《まで》も社会党撲滅と云ふことであるから、若《も》し其に好都合な申告を為《し》ないと、今度は警察の無能と云ふんで、我々の飯の食ひ上げになる、だから何でも可《い》いから持つて来い、虚誕《うそ》を組立てて事実を織り出すのが探偵の手腕だと――」
「馬鹿ツ」
「馬鹿ぢやありません、今度も左様《さう》です、松島が負傷したに就て、軍隊や元老の方からも八釜《やかま》しく言うて来て困る、是非何とかして、篠田を引《ひ》ツ縛《くゝ》らねばならぬからと言ふんでせう――其りや成程、僕が最初篠田と山木の嬢《むすめ》と、不正な関係がある様に虚誕《うそ》を報告して置いた結果で仕方ないですが――」
 川地は再び大喝せり「馬鹿ツ」

     二十七の二

 吾妻のワナ/\と顫《ふる》へる面《かほ》を、川地課長は冷《ひやや》かに眺《なが》めて
「其の態《ざま》は何だ、吾妻、貴様も年の若いに似合はず役に立つ男と思つて居たが、案外の臆病だナ、其れでも警察の飯を食つて居るのか」
 吾妻は頭押へつゝ「――其《そり》や僕も、爺《おやぢ》の脛《すね》を食ひ荒して、斯様《こん
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