りの為め、其の後に付いて、雪の山路を辿《たど》り来りしが「其う云ふ次第《わけ》で、長二や、気を着けてお呉れよ、此世に只《た》だ伯母一人|姪《をひ》一人と云ふのぢや無いか、――亭主には婚礼もせずに逝《ゆ》かれる、お前の阿父《おとつさん》は彼《あ》の様な非業《ひごふ》な最後をする、天にも地にも頼るのはお前ばかりのだ――まあ、之を御覧よ」と、眼下に白き雪の山里|指《ゆびさ》しつ「お前の阿父《おつとさん》は此の秩父《ちゝぶ》の百姓を助けると云ふので鉄砲に撃《う》たれたのだが、お前の量見は其れよりも大きいので、如何《どんな》災難が湧《わ》いて来ようも知れないよ、――此様《こんな》年老《としと》つた上に、逆事《さかさまごと》など見せて呉れない様にの――」
篠田も何とやらん後髪引かるゝやう「伯母さん、何卒《どうぞ》心配せんで下ださい、重々御苦労を御掛け申して来た今日《こんにち》ですから――其《そ》れに私も既《もう》三十を越したんですから、後先《あとさき》見ずのことなど致しませんよ、父にも母にも為《す》ることの出来なかつた孝行を、貴女《あなた》御一人の上に尽くしたいのが、私の精神ですからネ」
伯母は涙|堰《せ》きも敢《あ》へず「――長二や、――私や、斯《かう》してお前と歩《あ》るいて居ながら、コツクリと死にたいやうだ――」
ハヽヽヽと篠田は元気|克《よ》く打ち笑ひつ「何を伯母さん、仰《おつ》しやる、今《い》ま若《も》し貴女に死なれでもして御覧なさい、私は殆《ほとん》ど此世の希望《のぞみ》を亡《なく》して仕舞ふ様なもんですよ、何卒ネ、お躯《からだ》を大切にして下ださい、其のうちに又時を都合して参りますからネ」
「忙しからうがの」と、伯母は小さき袂《たもと》に溢《あふ》るゝ涙押し拭《ぬぐ》ひつ「何卒《どうぞ》其うしてお呉れよ、年増《としま》しにお前が恋しくなるので、――其れに、復《ま》た言ふ様だが、私《わし》の一生の御願だでの、一日も早く嫁を貰ふことにしてお呉れよ、――女房《にようぼ》が無いで身締《みじまり》が何《どう》の角《かう》のなどと其様《そん》な心配は、長二や、お前のことだもの少しも有りはせぬが、お前にしてからが何程心淋しいか知れはせぬよ、女など何の役にも立たぬ様に見えるが、偉い他人でも其の真心には及びませんよ、――諄《くど》いと思ふだろが、お前の嫁の顔見ぬ間《うち》は、
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