れぬ、
軽く首肯《うなづ》きたる梅子も、絹巾《ハンケチ》に眼を掩《おほ》ひぬ、
* * *
二輌の腕車《わんしや》は勇ましく走《は》せ去れり、
二十一の一
上野なる東照宮の境内を遠近《をちこち》話しながら歩を移す山木のお加女《かめ》と梅子、
「ネ、梅子、左様《さう》でせう、だから余ツ程考へなけりやなりませんよ、何時《いつ》までも花の盛《さかり》で居るわけにはならないからネ、お前さんなども、何《いづれ》かと言へば、最早《もう》見頃を過ぎた齢《とし》ですよ、まア、縹緻《きりやう》が可《い》いから一ツや二ツ隠《か》くしても居れようがネ――私にしてからが、只《た》だお前さんの行末を思へばこそ、斯《かう》してウルさく勧めるんだアね、悪く取られて、たまつたもんぢやありませんよ」
「阿母《おつか》さん、勿体《もつたい》ない、悪く取るなんてことあるものですか」
「けれど言ふことを聴いてお呉れでなきや、悪るく取つておいでとしか思はれませんよ」
樹間隠《このまがく》れに見ゆる若き夫婦の盛装せるが、睦《むつ》ましげに語らひ行く影を、ツクヅクとお加女は見送りながら「梅子、あれを御覧なさい、まアほんとに可愛らしい、雛人形《ひなにんぎやう》の様だよ――私も早くお前さんの彼《あゝ》した容子《ようす》を見たいと、其ればつかりが、親の楽《たのしみ》だアね、大きな娘を何時《いつ》までも一人で置いては、世間体も悪るし、第一草葉の蔭のお前の実母《おつか》さんに対して、私が顔向けなりませんよ――まア御覧なネ、あの手を引き合つて、嬉《うれ》しさうに笑つて、――男でも女でも彼《あれ》が一生の極楽世界と云ふもんですよ――羨ましいとは思ひませんかネ」
ジロリと、お加女は横目に見やれり、
梅子は他方を眺《なが》めつゝあり、
「あゝ、恐ろしいお嬢様だこと――」、お加女は目に角立てて独言《ひとりごと》しぬ、
二人は無言のまゝ長き舗石《しきいし》を、大鳥居の方に出で来れり、去れど其処には二輌の腕車《くるま》を置き棄てたるまゝ、何処《いづく》行きけん、車夫の影だも見えず、
「何《どう》したつてんだねエ――日がモウ入りかけてるのに、仕様《しやう》があつたもんぢやない、チヨツ」と、お加女は打ち腹立てて、的《まと》もなく当り散らしつゝあり、
通りかゝれる職人体《しよくに
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