くしたる眼《まなこ》を、忽《たちま》ち細くして笑《ゑ》みつくろひ、「山木様、まア、お目出度《めでたう》御座います、存じませんでしたもんですから、ツイ、失礼致しましてネ、――シテ、春山様、何殿《どなた》」
「先生が御存《ごぞんじ》無《なか》つたとは驚きましたねエ」と春山は容子つくろひ「あの、海軍大佐の松島様へ」
「オヽ、あの松島さんへ」と女教授は驚きしが「実権海軍大臣などと新聞で拝見する松島さんへ――左様《さう》ですか、山木様、貴嬢《あなた》にはほんとに御似合の御縁組ですよ」
 一座の視線は皆な沈黙せる梅子の面上に集まりぬ、
 松村と言へる弁護士の妻女は、独り初めより怪しげに打ち目《ま》もり居たりしが「先生、私《わたし》も山木様の御縁談の御噂《おうはさ》をお聞き申しましたが、只今の御話とは少《す》こし違ふ様ですよ」
「エ、松村様、ぢや何殿《どなた》と仰《おつ》しやるのです」
 松村は梅子の顔恐る/\見やりながら「間違ひましたら山木様、御免下ださいな――あの、同胞新聞社の篠田様へ――」
 麦沢教授は反歯《そつぱ》剥《む》き出してハツハと打ち笑へり「松村様、何を仰《おつ》しやる、山木様が何で彼様男《あんなひと》の所などへお嫁《い》でになるもんですか、私《わたし》も何時でしたか、何かの席で篠田と云ふ人見ましたがネ、貴女《あなた》、彼《あれ》は壮士ですよ、何《どう》して彼様《あんな》貧乏人と山木様が御結婚出来ますか」
「いゝえネ、先生、只だ私は山木様の教会と関係のある人から聞いたのですから――」
 と松村の穏かに弁疏するを、彼《か》の春山はシヤちやり出でつ「私《わたし》は良人《やど》から聞きましたのです、現に松島様が御自分で御披露になりましたさうで、軍人社会では誰知らぬものも無いので御座います」
 曰《いは》く松島自身の披露、曰く軍人社会の輿論《よろん》而《しか》して之を言ふものは、現に陸軍中尉の妻女、何人か又た之を疑はん「山木様はタシカ軍人はお嫌《きらひ》の筈《はず》でしたがネ」「独身主義の御講義を拝聴した様にも記憶致しますが」「オールド、ミスも余り立派なものでありませんからね」、など、聞えよがしの私語《さゝやき》も洩れぬ、
 梅子が余りの沈黙に、一座いたくシラけ渡りぬ、
 扉開かれて、歴年の老小使、腰打ち屈《かが》めつ「山木様――菅原の奥様が五号室に御待ち受けで御座います
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