ことが出来るぢやありませんか」
黙して目を閉ぢたる姉の面《かほ》を見上げたる剛一「姉さん、僕は実に此《かく》の如く貴嬢《あなた》を敬ひ、貴嬢を慕ひ、貴嬢を信じて、何事をも隠《か》くさないものを、姉さん、貴嬢は何故、僕を信用して下ださらないですか」
十一の二
「姉さん、僕は貴嬢が母の異《かは》つてる為めに、僕を疎遠になさるとか、悪《あし》き母より生れたる僕の故を以て……」
梅子は、急ぎて弟《おとゝ》を遮《さへぎ》りつ「剛さん、貴郎《あなた》は何を仰《おつ》しやるんです」
「姉さん、言はせて下さイ、何卒《どうぞ》十分に言はせて下さイ――僕は常に母の不心得を、仮令《たとひ》無教育の為めとは言ひながら実に情ないことと思ふのです、大洞《おほほら》の伯父――全《まる》で不義|貪慾《どんよく》の結塊《かたまり》です、父さんの如きも何《どう》ですか、薩長|藩閥《はんばつ》と戦《たゝかつ》て十四年に政府を退き、改進党の評議員となつて、自由民権を唱へなすつた名誉の歴史を、何と御覧なさるでせう、――其れが何《どう》です、藩閥政府の未路の奴等に阿媚《あび》して、国民の膏血《かうけつ》を分けて貰つて、不義の栄耀《ええう》に耽《ふけ》り、其手先となつて昔日《むかし》の朋友《ほういう》の買収運動をさへなさるとは、姉さん、まア、何と云ふ堕落でせうか」
剛一は姉の側に膝押し進めつ、「姉さん、僕は、此《かく》の如き人の児と生まれ、此の如き人の姪《をひ》と言はれることを耻づかしくて堪まらないのです、然《しか》るに姉さん、世間の奴等は何と云ふ破廉耻《はれんち》でせう、学校の校長でも教員でも、山木剛造の児であり、大洞利八の姪《をひ》である為めに、僕に対して特別の取扱をするんです、彼等と雖《いへど》も父《おやぢ》や伯父の不義を知らんことは無い、只《た》だ黄金に阿諛諂佞《あゆてんねい》するんです――姉さん、貴嬢《あなた》は僕に比ぶれば余程幸福です、貴嬢の実母《おつか》さんは実に偉い方であつたさうですし、父さんも未だ堕落以前の人であつたんだから――けれど其の為めに姉さんが僕を軽蔑《けいべつ》したり、何《なん》かなさる人でないことを確信してるから、嬉しいんです」
「剛さん、其様《そんな》こと言ふものぢやありません、何《ど》うぞ其様こと言はないで下ださイ」
「けれど、姉さん、何《ど》うぞ僕に言はせ
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