一日も早く此様|娑婆《しやば》は御免蒙《ごめんかうむ》りたいものだと思つてネ」
「ヘン、其様《そんな》に死《くたば》りたきや、小米の様に殺してでも貰ふが可《い》いや」
「養母《おつか》さん、可哀さうにも花吉にはネ、兼さんとか云ふ様な、実意の男《ひと》が無いんですよ、何《どう》せ芸妓町《げいしやまち》などへウロつく奴に、真人間のある筈が無いからネ――あゝ、ほんたうに米ちやんが、羨《うらや》ましい――」
チリヽンと格子戸開きて、「只今《たゞいま》」と可愛い声してあがり来れる未《ま》だ十一二の美しき小女《せうぢよ》、只ならぬ其場の様子に、お六と花吉との顔|暫《し》ばし黙つて見較《みくら》べつ、狭き梯子《はしご》ギシつかせて、狐鼠狐鼠《こそこそ》低き二階へ逃げ行けり、其の後影ながめ遣りたる花吉、「彼《あ》の児の寿命もコヽ二三年だ――養母《おつか》さん、最早《もう》罪造りも大抵にお止《よ》しなねエ」言ひ棄てて起ち上がりつ、お六の叫ぶ「畜生」をフハリ聞き流がして、ツイとばかり縁端《えんさき》へ出でぬ、
「――アヽ、いやだ/\」
十一の一
冬枯の庭園の輝く日さへ一としほ荒寥《くわうれう》を添ふるが中を、彼方此方《あなたこなた》と歩を移すは、山木の梅子と異母弟の剛一なり、
剛一は洋杖《ステツキ》もて庭石打ち叩《たゝ》きつゝ「だから僕は不平だと言ふんです、姉さんは少しも僕を信用して下ださらんのだもの」
梅子はいとも莞爾《にこやか》に「剛さん、可笑《をか》しいのねエ、私が何時《いつ》貴郎《あなた》を信用しなかつたの、私は貴郎の様な学問も品性も優等なる弟《おとゝ》のあることを、お友達にまで誇つて居る程ぢやありませんか」
「虚偽《うそ》ツ、若《も》し其れならば、姉さん、貴嬢《あなた》の苦悶を私に打ち明けて下すつても可《い》いぢやありませんか、秘密は即ち不信用の証拠です」
「秘密? 剛さん、私、何の秘密もありやしないワ」
云ふ顔、剛一は打ちまもりつ「其れ御覧なさい、其の通り姉さんは僕を信用なさらぬぢやありませんか、僕は能《よ》く貴嬢《あなた》の胸中を知つてます」
赤く枯れたる芝生の上に腰をおろして、剛一は、空行く雲を眺《なが》めやりつ「姉さん、今春《このはる》でしたがネ、僕は学校の運動場で、上野の森を見下しながら、藤野と話したことがありますよ」
突然の新談緒《しん
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