に沈んでおりましたのが、同じほどの年恰好《としかっこう》ではありましたし、非常に美しい人でもある人を拾うことのできましたのは、観音が自分へ下すったのだと言って喜びまして、気も狂わんばかりに私へこの人の命を救えと頼むものですから、私も坂本《さかもと》へ下ってまいり、その時は私自身で祈祷をし、護身法も行なってあげました。それからは失心状態でも放心状態でもなくなり、次第によろしくなられたのでございますが、自身ではまだ憑かれたものの離れてしまわない気がする、これに妨げられずに未来の世界を思うようになりたいと私へ悲しいお話があったものですから、出家は自分のほうからお勧めもしたいことであるからと申して授戒を行なわせてさしあげたのでございます。あなたに御関係のある方などとは、空では悟りようもありませんでした。不思議な出来事なのですから、人にも話せば捜しておいでになる方の注意を引くことになったかもしれないのでしたが、世間に聞こえては煩わしいことになるであろうと申して、妹の尼はそれをとめましたので、長く秘密にいたしてまいったのでございます」
こう物語った。いよいよ事実であったのかと薫は、小宰相から少し聞いた話から山へまで遠く僧都を尋ねて来たのではあるが、全然死んだと思っていた人が、確かにこの世に存在していたのかという驚きをまたも覚えて、夢の中の気持ちがし、心の打たれたことによって涙ぐまれるのを、高僧を前に置いてこんな弱さを見せるものでないと反省され、冷静なふうを作っていたが僧都には、薫の感じていることがわかり、これほどにも愛していた人を、生きていても死んだのと同じような尼の身に自分はしてしまったと過失をした気になり、罪を作ったという自責も覚えて、
「悪いものに魅入《みい》られになったということも前生の約束事なのですよ。必ず高い家の子でおありになったのでしょう。前生のどんなあやまちでさすらいの身などにおなりになったのでしょうか」
と僧都は問うてみた。
「王族の端とまあいうほどの人です。私も妻として結婚をしたのではありません。あることが動機になって恋愛がそこへまで進んでしまった間柄でした。がしかし、そんなにまで人の好意にすがって養われねばならぬような待遇を私はしていたのではありませんのに、不思議に跡かたもなくなってしまったものですから、身を投げたかなどと、それによってまたいろいろな想
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