ならぬわが身一つはもとの身にして)と忍ばれることがあるからであろう。御仏に後夜《ごや》の勤行《ごんぎょう》の閼伽《あか》の花を供える時、下級の尼の年若なのを呼んで、この紅梅の枝を折らせると、恨みを言うように花がこぼれ、香もこの時に強く立った。
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袖ふれし人こそ見えね花の香のそれかとにほふ春のあけぼの
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姫君のその時の作である。
大尼君の孫で紀伊守《きいのかみ》になっている人がこのころ上京していて訪《たず》ねて来た。三十くらいできれいな風采《ふうさい》をし思い上がった顔つきをしていた。大尼君の所で去年のこととか、一昨年《おととし》のこととかを訊《き》こうとしているのであったが、ぼけてしまったふうであったから、そこを辞して叔母《おば》の尼君の所へ来た。
「非常に老いぼれておしまいになりましたね。気の毒ですね。御老体のお世話をすることもできずに遠い国で年を送っていますのは相済まぬことだと思っているのですよ。両親のいなくなりましてからは、お祖母《ばあ》さんだけがその代わりのたいせつな方だと思って来たのですがね。常陸《ひたち》夫人からはたより
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