取りにやって少将は自信がありそうに先手を姫君に打たせたが、さんざんなほど自身は弱くて負けた。それでまた次の勝負に移った。
「尼奥様が早くお帰りになればよい、姫君の碁をお見せしたい。あの方はお強いのですよ。僧都様はお若い時からたいへん碁がお好きで、自信たっぷりでいらっしゃいましたところがね、尼奥様は碁聖《きせい》上人になって自慢をしようとは思いませんが、あなたの碁には負けないでしょうとお言いになりまして、勝負をお始めになりますと、そのとおりに僧都様が二目《にもく》お負けになりました。碁聖の碁よりもあなたのほうがもっとお強いらしい。まあ珍しい打ち手でいらっしゃいます」
と少将はおもしろがって言うのであった。昔はたまにより見ることのなかった年のいった尼梳《あます》きの額に、面と向かって始終相手をさせられるようになってはいやである。興味を持たれてはうるさい、めんどうなことに手を出したものであると思った浮舟の姫君は、気分が悪いと言って横になった。
「時々は晴れ晴れしい気持ちにもおなりあそばせよ。惜しいではございませんか、青春を沈んでばかりおいでになりますことは。ほんとうに玉に瑕《きず》のある気がされます」
などと少将は言った。夕風の音も身に沁《し》んで思い出されることも多い人は、
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心には秋の夕べをわかねどもながむる袖《そで》に露ぞ乱るる
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こんな歌も詠《よ》まれた。月が出て景色《けしき》のおもしろくなった時分に、昼間手紙をよこした中将が出て来た。
いやなことである、なんということであろうと思った姫君が奥のほうへはいって行くのを見て、
「それはあまりでございますよ。あちらのお志もこんなおりからにはことに深さのまさるものですもの、ほのかにでもお話しになることを聞いておあげなさいませ。あちらのお言葉が染《しみ》になってお身体《からだ》へつくようにも反感を持っていらっしゃるのですね」
少将にこんなふうに言われれば言われるほど不安になる姫君であった。姫君もいっしょに旅に出かけたと少将は客へ言ったのであるが、昼間の使いが一人は残っておられる、というようなことを聞いて行ったものらしくて中将は信じない。いろいろと言葉を尽くして姫君の無情さを恨み、
「お話をしいて聞かせてほしいとは申しません。ただお近い所で、私のする話をお聞きくだすって、その結果私に好意を持つことがおできにならぬならそうと言いきっていただきたいのです」
こんなことをどれほど言っても答えのないのでくさくさした中将は、
「情けなさすぎます。この場所は人の繊細な感情を味わってくださるのに最も適した所ではありませんか。こんな扱いをしておいでになって何ともお思いにならないのですか」
とあざけるようにも言い、
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「山里の秋の夜深き哀れをも物思ふ人は思ひこそ知れ
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御自身の寂しいお心持ちからでも御同情はしてくだすっていいはずですが」
と姫君へ取り次がせたのを伝えたあとで、少将が、
「尼奥様がおいでにならない時ですから、紛らしてお返しをしておいていただくこともできません。何とかお言いあそばさないではあまりに人間離れのした方と思われるでしょう」
こう責めるために、
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うきものと思ひも知らで過ぐす身を物思ふ人と人は知りけり
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と浮舟が返しともなく口へ上せたのを聞いて、少将が伝えるのを中将はうれしく聞いた。
「ほんの少しだけ近くへ出て来てください」
と中将が言ったと言い、少将らは姫君の心を動かそうとするのであるが、姫君はこの人々を恨めしがっているばかりであった。
「あやしいほどにも御冷淡になさるではありませんか」
と言いながら女房がまた忠告を試みにはいって来た時に、姫君はもう座にはいなくて、平生はかりにも行って見ることのなかった大尼君の室《へや》へはいって行っていた。少将がそれをあきれたように思って帰って来て客に告げると、
「こんな住居《すまい》におられる人というものは感情が人より細かくなって、恋愛に対してだけでなく一般的にも同情深くなっておられるのがほんとうだ。感じ方のあらあらしい人以上に冷たい扱いを私にされるではないか。これまでに恋の破局を見た方なのですか。そんなことでなく、ほかの理由があるのかね。この家《うち》にはいつまでおいでになるのですか」
などと言って聞きたがる中将であったが、細かい事実を女房も話すはずはない。
「思いがけず奥様が初瀬《はせ》のお寺でお逢いになりまして、お話し合いになりました時、御縁続きであることがおわかりになりこちらへおいでになることにもなったのでございます」
とだけ言っていた。
浮舟の姫君はめんど
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