》の御孫であったと薫は思い出して、
「式部卿の宮様に私を愛していただいたものなのだから」
 と独言《ひとりごと》を言いその座敷の前へ行ってみた。美しい姿の童女が略服になって、二、三人縁側へ出ていたが、薫を見て晴れがましいというように中へ隠れてしまった。これが普通の所の情景であると今見て来た廊の座敷と比べて薫は思った。南の隅《すみ》の間のそばで咳《せき》払いをすると、少し年のいったような女房が出て来た。
「人知れず好意を持っている者ですなどと申せば、それはだれも言うことだとお聞きになるでしょうし、またそうした若い人たちの口|真似《まね》をすることも私にはできません。それよりも言葉でない実質的な御用に立つことはないかと捜しております」
 と言うと、その女は女王にも取り次がず、賢がって、
「思いがけぬお身の上におなりあそばしましたことにつきましても、宮様がどんなにいろいろなお望みを姫君の将来にかけておいでになりましたかと思われまして、悲しゅうございます。いつも御親切に仰せくださいまして、お宮仕えにおいでになりました御非難のお言葉なども、ごもっともだと女王《にょおう》様は言っておいでになること
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