ままでかき鳴らす薫であった。律の調べは秋の季によく合うと言われるものであったから、気も入れて弾かぬ琴の音であるが、みずから感じの悪いものとは思われぬものの、長くも弾いていなかったのを、熱心に聞きいっていた人たちはかえって残り多さも出て苦しんだ。自分の母宮もこの姫宮に劣る御身分ではない、ただ后腹というわずかな違いがあっただけで朱雀《すざく》院の帝《みかど》の御待遇も、当帝の一品《いっぽん》の宮を尊重あそばすのに変わりはなかったにもかかわらず、この宮をめぐる雰囲気《ふんいき》とそれとに違ったもののあるのは不思議である。明石《あかし》の女のもたらしたものはことごとく高華なものであったとこんなことを思う続きに薫は運命が自分を置いた所はすぐれた所であるに違いない、まして女二の宮とともに一品の宮までも妻に得ていたならばどれほど輝かしい運命であったであろうと思ったのは無理なことと言わねばならない。
宮の君はここの西の対の一所を自室に賜わって住んでいた。若い女房たちが何人もいる気配《けはい》がそこにして皆月夜の庭の景色《けしき》を見ていた。そうであったあの人も浮舟らと同じ桐壺《きりつぼ》の帝《みかど
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