とす》、眼見若為憐《めにみていかばかりおもしろからん》)」
 こう言うのに驚いたはずであるが、少し上げた御簾《みす》をおろしなどもせず、一人は身を起こして、
「崔季珪《さいきけい》のようなお兄様がいらっしゃるかしら」
 と言う。その声は中将の君といわれていた女であった。
「私は宮様の母方の叔父《おじ》なのですよ。(遊仙窟。容貌似舅潘安仁外甥《かんばせはをぢはんあんじんににたりぐわいせいなればなり》、気調如兄崔季珪小妹《きざしはあにさいきけいのごとしいもうとなればなり》)」
 こんな冗談《じょうだん》を言ったあとで、
「いつものように中宮様のほうへ行っておしまいになったのでしょうね、宮様はお里住まいの間は何をしていらっしゃるのですか」
 思わずこんな問いを薫は発することになった。
「どこにいらっしゃいましても、別にこれという変わったことはあそばしません。ただいつもこんなふうでお暮らしになっていらっしゃるばかり」
 聞いていて美しいお身の上であると思うことで知らず知らず歎息の声の洩《も》れて出たのを、怪しむ人があるかもしれぬと思う紛らわしに、女房たちが前へ出した和琴《わごん》を、調子もその
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