界での交わりを約していながら、女王に心を引かれ始めて、信仰をよそにした報いを受けるのであろうと、こんなことも思われた。
大将は右近を前に呼んで話そうとしたが、悲しみが先に立ちはかばかしい質問もできない。
「もう忌の残りの日も少なくなったのだから済んでからと思ったが、どうしても待ちきれないものがあって来た。どんな病状でにわかにあの方は死ぬようになられたか」
と問われ、右近は弁の尼なども姫君の遺骸のなくなっていたことは気《け》どっているのであるから、隠してもしまいには薫の耳にはいることに違いない、かえってことを蔽《おお》おうとして誤解を招くことになっては姫君が気の毒である、あの不始末を処理するためにはいろいろな嘘《うそ》も言われたのであるが、このまじめな人に対しては、今までも逢《あ》った時にはこうも弁解しああも言ってと考えていたことは皆忘れてしまい、嘘は恐ろしくなり真実の話をした。これは薫の想像にものぼらなかったことであったから、驚きのためにしばらくはものも言われなかった。それを真実とは信じがたい、普通の人が煩悶《はんもん》をしたり、悲しんだりする場合にも多くは口に言わずおおようにして
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