るのを悲しく宮は思召した。浮舟のために作らせておありになった櫛《くし》の箱一具、衣裳《いしょう》箱一つを宮は贈り物にあそばした。その人のためにお設けになった物は多かったのであるが、これはただ内記に託しておこしらえになっただけのものであった。
突然山荘を出て来て、こうした戴《いただ》き物をして帰っては他の人々が何と思うであろう、少し困ったことであると侍従は思ったのであるが、御辞退のできることでもなかった。
宇治へ帰った侍従は右近と二人でひそかに櫛の箱と衣箱の衣裳をつれづれなままにこまごまと見た。はなやかな錦繍《きんしゅう》の服と精巧な作の箱、その中の小箱を見ながらも二人は非常に泣いた。喪にこもっている自分たちはこれをどう隠しておればいいかということにも苦心を要した。
薫も思い余って宇治へ行くことにした。途中からもう昔のことがいろいろと胸へ集まってきて、どんな因縁で八の宮の所へ自分は行き始めたのであろう、二人の女王に失恋をして、父宮から子とも認められなかった人にまで縁が生じ、この一家との結ばれによって物思いばかりを自分はし続ける、尊い悟りをお持ちになった方へ仏の導きで近づき、未来の世
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