いた人にどうしてそんな恐ろしいことが思い立たれるか、そのほかの事実を自分へこう取り繕って言うのではなかろうかと、いっそう心の乱れてゆくのを覚える薫であったが、しかしあの人をお隠しになったようでもなく宮が悲しんでおいでになったことは著しいことであったし、この家の様子も、死が作り事であれば自然に気配《けはい》が違っているはずであるのに、自分の来たのを見ると人は上から下まで集まって来て泣き騒いでいるではないかと考え、
「奥さんといっしょに行ってしまった人があるか、もっと詳細にその時のことを言ってくれ。私に誠意がないからほかへ行ってしまう気にあの人がなったとは思われない。何もなくてにわかにそんなことができるか、私は信じることができない」
と言った。予期した詰問であると右近は恐れた。
「もうおわかりになっていらっしゃいましたでしょうが、宮様の姫君としてお育てられになったのではございませんでしたから、心でいろいろ御苦労をなされた方でございます。それが寂しいお住まいをなさることになりましてからはいつからともなく物思いをなさいますことになりましたのですが、たまさかにもせよあなた様がおいでになります時
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