とにはよく気はついていたのであるが、自殺などという恐ろしいことの決行できる方とは見えず、優しい柔らかい心の持ち主だったではないかと、まだ事実を事実として信じることができずにただ悲しいばかりの右近であった。乳母はかえってはげしい驚きのために放心して、
「どうすればいいだろう、どうすれば」
とばかり言っているのである。
兵部卿《ひょうぶきょう》の宮も普通でない気配《けはい》のある返事をお読みになったため、どんなふうな気になっているのであろう、自分を愛していることは確かであるが、移り気であると自分の言われていることに疑いを持っていたから、大将の手へ行くのではなくどこともなく行くえをくらまそうとするのではあるまいか、と不安でならずお思いになって使いをお出しになった。
使いが来てみると家の中は女の泣き叫ぶ声に満ちていてお手紙を受け取ろうとする者もない。どうしたことかと下《しも》の女中に聞くと、
「姫君が昨晩にわかにお亡《かく》れになりましたので、女房がたはだれも気を失ったようになっていらっしゃるのですよ。御用をお取り次ぎしましてもだめでしょう」
と言った。何の事情も知らぬ男であったから、
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