悲しみよう、煩悶《はんもん》のしようの並み並みでなかったことから、川へ身を投げたという想像がつくのであった。泣く泣く夫人の送ってきた手紙をあけて見ると、
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あまりにあなたが心配で安眠のできないせいでしょうか、今夜は夢の中であなたを見ることすらよくできないのです。眠ったかと思うと何かに襲われて苦しむのです。そんなことで気分もよろしくなくて困ります。移転される日の近くなったことは知っていますが、それまでの間をこの家へあなたを来させていたく思います。今日は雨になりそうですからだめでしょうが。
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 と書かれてあった。昨夜浮舟の書いた返事もあけて読みながら右近は非常に泣いた。こんな覚悟をしておいでになったので心細いようなことをお言いになったのである、小さい時から少しの隔てもなく親しみ合った主従ではないか、隠し事は塵《ちり》ほどもなかった間柄ではないか、それだのに最後に自分をおうとみになり自殺の気《け》ぶりもお見せにならなかったのは恨めしいと思うと、泣いても泣いても足らず足摺《あしず》りということをしてもだえているのが子供のようであった。悲しんでいたこ
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