ころにいて悲しみの休む間《ひま》もないのである、その娘もまたどうなることかと不安だったがそれは安産した。穢《けが》れがあってはこれも見に行くことができないのである、そのほかの子供たちのことも皆忘れたようになり、茫然《ぼうぜん》としている時に右大将からそっと使いが来て手紙をもらった。ぼけている心にもそれはうれしかったが、また悲しくもなった。
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思いがけぬ不幸にあい、まずあなたに悲しみを訴えたいと思ったのですが、心が落ち着かず、また涙に目も暗くなる気がして実行はできませんでした。ましてあなたはどんなに悲しんでおいでになることだろう。涙に沈んでおいでになることだろうと思いますと、手紙をあげてもお読みにはなれまいと遠慮も申しているうちに日がずんずんとたちました。人生の常なさがことごとに形となってわれらをおびやかします。この悲しみにも堪える力の許されて、私が生きていましたなら、故人の縁のあった者として何かのことは御相談もしてください。
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などとこまやかな心で書かれたものだった。使いにはあの大蔵|大輔《たゆう》が来たのである。
「すべてを気長に考えていたものですから、かなり月日はたっていても、必ずしも私を誠意のある婿とは思ってくださらなかったでしょう。しかし今は何につけてもあなたの御一家のことは念頭に置いて忘れますまい。またそのように内々信じてくだすって、お力になるものと思っていてください。小さい息子《むすこ》さんたちもあるそうですが、仕官をおさせになる場合には必ず後援をするつもりで私はいます」
と、言葉でも伝えさせた。ひどく忌む性質の穢れでもないからと言って、夫人はしいて大輔を座敷へ招じた。そして返事を泣く泣く書いていた。
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悲しい思いをいたしますだけでは死なれませぬ命を歎いております私へ、もったいないおいたわりの言葉などのいただけますとは夢想もいたしませんでした。故人がおりました間、心細い様子は見ておりながら、それは私自身の無力からであると存じまして、ただおそれ多い行く末かけてのあたたかいお言葉一つを頼みにいたしておりましたが、死なせましてあとではあの地との因縁が悲しくばかり思われてなりません。いろいろと将来のことでうれしい仰せを賜わりましたことで、命の延びることにもなりまして、今しばらく生きてまいれま
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