あったから、見るたびに昔のことが今のような気がして、この姫君ほどの人でない女にもせよ、いっしょにおれば憐《あわれ》みはわいてくるであろうと思われるのに、まして恋しい人に似たところが多く、かわりとして見てもそう格段な価値の相違もない人が、ようやく思想も成熟してき、都なれていく様子の美しさも時とともに加わる人であるからと薫は満足感に似たものを覚えて相手を見ていたが、女はいろいろな煩悶のために、ともすれば涙のこぼれる様子であるのを大将はなだめかねていた。

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「宇治橋の長き契りは朽ちせじをあやぶむ方に心騒ぐな
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 そのうち私の愛を理解できますよ」
 と言った。

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絶え間のみ世には危ふき宇治橋を朽ちせぬものとなほたのめとや
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 と女は言う。
 今まで来て逢っていた時よりも別れて行くのがつらく、少しの時間でも多くそばにいたい気のする薫であったが、世間はいろいろな批評をしたがるものであるから、今まで事もなく隠すことのできた愛人との間のことが、今になって暴露することになってはまずい、よい時節に公表もできるのを待とうと思い夜明けに帰った。
 感情の豊かに備わった女になったと薫は宇治の人のことを思い、哀れに思い出されることは以前に倍した。
 二月の十日に宮中で詩会があって、兵部卿《ひょうぶきょう》の宮もお出になり、右大将もまいった。この季節によくかなった音楽の感じは皆よくて、兵部卿の宮の御美声は人に深い感銘をお与えになるものであって、曲は梅が枝を歌われたのである。何事にも天才を持っておいでになる方であったが、よこしまな恋に心を打ち込んでおいでになるだけは罪の深いことである。
 にわかに雪が大降りになって、風もはげしく出てきたので、音楽遊びは予定より早く終わりを告げた。兵部卿の宮の宿直所《とのいどころ》に今日の参会者たちは集まって行き夜の食事をいただいたりしていた。右大将は部下の者か何かに命じることがあって少し縁側に近い所へ出ていたが、やや深く積もった雪が星の光にほのめいている夜であって「春の夜の闇《やみ》はあやなし梅の花色こそ見えね香《か》やはかくるる」薫《かおる》の身からこんな気が放たれるような時「衣かたしきこよひもや」(われを待つらん宇治の橋姫)と口ずさんでいるのがしめやかな世界へ人
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