を聞き出そうとあそばすのを女は苦しがって、
「私の申せませんことをなぜそんなにしつこくお訊《き》きになりますの」
 と恨みを言うのも若々しく見えた。そのうちわかることであろうと思召しながら、直接今この人に言わせて見たいお気持ちになっておいでになるのであった。
 夜になってから京へいったんお帰しになった時方《ときかた》が来て右近に面会した。
「中宮《ちゅうぐう》様からもお使いがまいっておりました。左大臣も機嫌《きげん》を悪くなさいまして、だれにもお行き先をお言いにならぬような微行をなさるのは軽率で、無礼者にどこでお逢いになるかもしれぬことになって、お上《かみ》の耳にはいれば自分の落ち度になるからとやかましくおっしゃいました。東山にえらい上人《しょうにん》があるという話をお聞きになって逢いにおいでになったのですと、私は披露《ひろう》しておきました」
 こう宮へ取り次がせることを述べたあとで、
「女の方は罪の深いものですね。私のようなきまじめな者さえその圏内へお引き入れになって作り事までお言わせになりますからね」
 と時方は右近へ言った。
「上人にしてお置きになったのはよろしゅうございましたわね、あなたの嘘《うそ》の罪もそれで消滅することになるでしょう。ほんとうに意外なことを意外な時に宮様はお思いつきになったものでございますわね。前からおいでになりたいという思召しを洩《も》らしてお置きくださいましたら、もったいない方でいらっしゃるのですもの、どうにかいい取り計らいようもありましたのに、御思案の足らない御行動でございましたわね」
 右近は礼儀としての好意を表して言った。そして居間のほうへ行き、聞いたとおりを宮へ申し上げた。中宮の御心配あそばされること、左大臣の言葉も道理にお思われになり、姫君へ、
「私は窮屈そのもののような身の上がわびしくてならない。軽い殿上役人級の地位にしばらく置いてほしい。これからどうすればいいのでしょう。このうるさいことをはばかって出て来ないでおられる私とは思われない。大将も聞けばどんなに感情を害することだろう。濃い親戚《しんせき》関係とはいうものの不思議なくらい少年時代から仲よくつきあってきた人に、こうした秘密が知れれば恥ずかしいことだろうと思う。それからまた男は身勝手で自己の不誠意は棚《たな》へ上げて女の変心したのを責めるものだというから、自身の愛
前へ 次へ
全51ページ中17ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
紫式部 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング