に信じて、
「深いお志からの御微行でしたわね。ひどい目におあいになったりあそばしてお気の毒なんですのに、お姫様は事情をご存じないようですね」
 などと賢がっている女もあった。
「静かになさいよ。夜は小声の話ほどよけいに目に立つものですよ」
 こんなふうに仲間に注意もされてそのまま寝てしまった。
 姫君は夜の男が薫でないことを知った。あさましさに驚いたが、相手は声も立てさせない。あの二条の院の秋の夕べに人が集まって来た時でさえ、この人と恋を成り立たせねばならぬと狂おしいほどに思召した方であるから、はげしい愛撫《あいぶ》の力でこの人を意のままにあそばしたことは言うまでもない。初めからこれは闖入《ちんにゅう》者であると知っていたならば今少し抵抗のしかたもあったのであろうが、こうなれば夢であるような気がするばかりの姫君であった。女のやや落ち着いたのを御覧になって、あの秋の夕べの恨めしかったこと、それ以来今日まで狂おしくあこがれていたことなどをお告げになることによって、兵部卿《ひょうぶきょう》の宮でおありになることを姫君は知った。いよいよ羞恥《しゅうち》を覚えて、姉の女王がどうお思いになるであろうと思うともうどうしようもなくなった人はひどく泣いた。宮も今後会見することは不可能であろうと思召《おぼしめ》されるためにお泣きになるのであった。
 夜はずんずんと明けていく。お供の人たちが注意を申し上げるように咳払いなどをする。右近がそれを聞いて用をするためにおいでになる所の近くへ来た。宮は別れて出てお行きになるお気持ちにはなれず、どこまでもお心の惹《ひ》かれるのをお覚えになったが、そうかといってこのままでおいでになることもおできにならないことであった。京で捜されまわるようなことはあっても、今日だけはここに隠れていよう、世間をはばかるということもよく生きようがためである、自分は今別れて行けば死ぬことになるとお心をおきめになった宮は、右近を近くへお呼びになって、
「思いやりのないことと思うだろうが、今日は帰りたくない。従者らはここに近いどこかでよく人目を避けて時間を送るように。それから時方《ときかた》は京へ行って山寺へ忍んで参籠《さんろう》していると上手《じょうず》にとりなしをしておけと言ってくれるがいい」
 と仰せられた。右近はあさましさにあきれて、何の気なしに大将であると思い、戸をあ
前へ 次へ
全51ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
紫式部 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング