いにまいりました。その人の顔が不思議なほど亡《な》くなりました姉に似ていましたのでね、私は愛情らしいものを覚えたのです。形見に見ようと思召すのには適当でございませんことは、女たちも姉とはまるで違った育ち方の人のようだと言っていたことで確かでございますが、顔や様子がどうしてあんなにも似ているのでしょう。それほどなつながりでもございませんのに」
この中の君の言葉を薫はあるべからざる夢の話ではないかとまで思って聞いた。
「しかるべきわけのあることであなたをお慕いになっておいでになったのでしょう。どうしてただ今までその話を少しもお聞かせくださらなかったのでしょう」
「でも古い事実は私に否定も肯定もできなかったのでございますからね。何のたよりになるものも持たずにさすらっている者もあるだろうとおっしゃって、気がかりなふうにお父様が時々お洩《も》らしになりましたことなどで思い合わされることもあるのですが、過去の不幸だった父がまたそんなことで冷嘲《れいちょう》されますことの添いますのも心苦しゅうございまして」
中の君のこの言葉によれば、八の宮のかりそめの恋のお相手だった人が得ておいた形見の姫君らし
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