でしょうからね。少し前の時代にその絵から真実の花が降ってきたとかいう伝説の絵師がありますがね、そんな人がいてくれればね」
何を話していても死んだ人を惜しむ心があふれるように見えるのを中の君は哀れにも思い、自身にとって一つの煩わしさにも思われるのであったが、少し御簾《みす》のそばへ寄って行き、
「人型とお言いになりましたことで、偶然私は一つの話を思い出しました」
と言い出した。その様子に常に超《こ》えた親しみの見えるのが薫はうれしくて、
「それはどんなお話でしょう」
こう言いながら几帳の下から中の君の手をとらえた。煩わしい気持ちに中の君はなるのであったが、どうにかしてこの人の恋をやめさせ、安らかにまじわっていきたいと思う心があるため、女房へも知らせぬようにさりげなくしていた。
「長い間そんな人のいますことも私の知りませんでした人が、この夏ごろ遠い国から出てまいりまして、私のここにいますことを聞いて音信《たより》をよこしたのですが、他人とは思いませんものの、はじめて聞いた話を軽率《けいそつ》にそのまま受け入れて親しむこともできぬような気になっておりましたのに、それが先日ここへ逢《あ》
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