中納言以外に適当な婿はないということへ帝のお考えは帰着した。内親王の良人《おっと》としてどの点でも似合わしくないところはない、愛人を他に持っていたとしても、妻になった宮を辱《はずか》しめるようなことはしないはずの男である、しかしながら早くしないでは正妻というものをいつまでも持たずにいるわけはないのであるから、その前に自分の意向をかれにほのめかしておきたいとこんなことを帝は時々思召した。
 ある日帝は碁を打っておいでになった。暮れがたになり時雨《しぐれ》の走るのも趣があって、菊へ夕明りのさした色も美しいのを御覧になって、蔵人《くろうど》を召して、
「今殿上の室にはだれとだれがいるか」
 と、お尋ねになった。
「中務卿親王《なかつかさきょうしんのう》、上野《こうずけ》の親王《しんのう》、中納言《ちゅうなごん》源《みなもと》の朝臣《あそん》がおられます」
「中納言の朝臣をこちらへ」
 と、仰せがあって薫《かおる》がまいった。実際源中納言はこうした特別な御|愛寵《あいちょう》によって召される人らしく、遠くからもにおう芳香をはじめとして、高い価値のある風采《ふうさい》を持っていた。
「今日の時雨
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