《しぐれ》は平生よりも明るくて、感じのよい日に思われるのだが、音楽は聞こうという気はしないし、つまらぬことにせよつれづれを慰めるのにはまずこれがいいと思うから」
と帝はお言いになって、碁盤をそばへお取り寄せになり、薫へ相手をお命じになった。いつもこんなふうに親しくおそばへお呼びになる習慣から、格別何でもなく薫が思っていると、
「よい賭物《かけもの》があっていいはずなんだがね、少しの負けぐらいでそれは渡せない。何だと思う、それを」
という仰せがあった。お心持ちを悟ったのか薫は平生よりも緊張したふうになっていた。碁の勝負で三番のうち二番を帝はお負けになった。
「くやしいことだ。まあ今日はこの庭の菊一枝を許す」
このお言葉にお答えはせずに薫は階《きざはし》をおりて、美しい菊の一枝を折って来た。そして、
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世の常の垣根《かきね》ににほふ花ならば心のままに折りて見ましを
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この歌を奏したのは思召しに添ったことであった。
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霜にあへず枯れにし園の菊なれど残りの色はあせずもあるかな
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と帝は
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