終出て来る人があってそちらのこともこちらの様子も双方でよく知っていた。まだ総角の姫君に死別した悲しみに茫然《ぼうぜん》となっていて、涙目の人になっていると中納言のことの言われているのを聞いて中の君は、中納言の姉君に持っていた愛は浅薄なものではなかったと、いっそう今になって身にしむようにその人の恋が思われるのであった。
 兵部卿《ひょうぶきょう》の宮は宇治へお通いになることが近ごろになっていっそう困難になり、不可能にさえなったために、中の君を京へ迎えようと決心をあそばした。
 御所の内宴などがあって騒がしいころを過ごしてから薫は、心一つに納めかねるような愁《うれ》いも、その他のだれに話すことができようと思い、匂宮《におうみや》の御殿をお訪《たず》ねした。しめやかな早春の夕べの空の見える所に宮は出ておいでになった。十三|絃《げん》をお弾《ひ》きになりながら、例のお好きな梅の香を愛してもいられたのである。薫はその梅の花の下の枝を少し折って、手に持ちながらはいって来た。艶《えん》な感じが覚えられることであった。宮はこの早春の夕べにふさわしい客をうれしくお思いになり、

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