折る人のこころに通ふ花なれや色にはいでず下ににほへる
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とお言いになると、
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「見る人にかごと寄せける花の枝を心してこそ折るべかりけれ
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私が困ります」
薫も冗談《じょうだん》にしてこんなことを申し上げた。並べて見るに最もよく似合った若い貴人と見えた。しんみりとした話になっていって、どうしているかと宇治のことをまず宮はお聞きになった。薫も恋人に死なれた悲しみを言い、初めから今までのその人に関する物思いの連続を、そのおりあのおりと、身にしむようにも、美しくも泣きながら、笑いながらというように話し出したのを、聞いておいでになって、繊細な感情に富んでおいでになり、涙もろい癖の宮は、他人のことながらも、袖《そで》を絞るほどの涙をお流しになって、熱心な受け答えをあそばされるのであった。天もまた哀愁の人に同情するかのように、空を霞《かすみ》がぼんやりこめて、夜になってからは烈《はげ》しく風も吹き出し、まだ冬らしい寒さが寄ってきて灯《ひ》も消えた。「春の夜の闇《やみ》はあやなし」というようなたよりなさではあったが、話す
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