わった薫に、しいて六の君を娶らせることは断念した。
陽春の花盛りになって、薫は近い二条の院の桜の梢《こずえ》を見やる時にも「あさぢ原主なき宿のさくら花心やすくや風に散るらん」と宇治の山荘が思いやられて恋しいままに、匂宮《におうみや》をお訪ねしに行った。宮はおおかたここにおいでになるようになって、貴人の夫人らしく中の君も住み馴《な》れたのを見て、その人の幸福を喜びながらも怪しいあこがれの心はそれにも消されなかった。ますます中の君が恋しくなっていく。しかし本心は親切で、中の君を深く庇護《ひご》しなければならぬことを忘れなかった。
宮と薫は何かとお話をし合っていたが、夕方に宮は御所へおいでになろうとして、車の仕度《したく》がなされ、前駆などが多く集まって来たりしたために、客殿を立って西の対の夫人の所へ薫はまわって行った。山荘の寂しい生活をしていた時に変わり、御簾《みす》の内のゆかしさが思われるような、落ち着いた高華な夫人の住居《すまい》がここに営まれていた。美しい童女の透き影の見えるのに声をかけて、中の君へ消息を取り次がせると、褥《しとね》が出され、宇治時代からの女房で薫を知ったふうの人
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